スキーボードにおけるワックスと摩擦について

注:ここで紹介している方法を参考にする場合、必ず自己責任において行って下さい。特にワックスの扱いを間違った場合、板に対する深刻なダメージを負わせるだけでなく、火傷などの怪我を負いかねません。十分使用方法に注意し作業を行って下さい。

スキーボード(ファンスキー)を長く楽しんでいると、ワックスというのが気になり始めます。

ワックスはスキーの滑走面に塗ることで滑走性を良くしてくれる大事なものです。そのワックスはいろいろあって、簡易的な缶に入っているスプレーワックスから本格的なアイロンを使うホットワックスと、なかなか奥が深いものです。

とはいえホビースキーヤーやレジャースキーヤーが多く、競技でのスキーもほとんどないスキーボードでは、実際のところワックスの重要性があまり理解されてません。

そんなあなたに今回「スキーボードのワックス」について解説したいと思います。


スキーは雪の上を滑ります。(※鉄の上や塩ビの上で滑る人もいますがそれは置いておいて…)

ここで問題になるのが「摩擦」です。あんなにツルツル滑る雪の上でも摩擦はあります。雪の上では雪の状態は汚れ具合によって摩擦が変化するので、いつも同じコンディションで滑るのは案外大変です。摩擦が0に近ければ多少摩擦が大きくなっても気になりませんが、大きくなればなるほど板が引っかかるような、足元が引っかかるような感覚を覚えますし、ともすれば板が全く滑らなくなることもあります。こうなると気持ちよく滑れないどころか、けがをしてしまう事すらあります。

この摩擦の影響を可能な限り0に近づけるのがワックスの役割なのですが、一般のワックス理論のままで考えると実はスキーボードの場合通用しないことがあります。それはスキーボードが短いということです。

ちょっと専門的にはなりますが、「面圧」というものがあります。面圧は1cm×1cmあたりにどれくらいの力がかかっているか?というものです。一般のスキーやボードに比べてスキーボードの面圧がどうなのか?と簡単に比較すると次のようになります。


ユーザーの体重が72kg(=72000g)だとして

スキー(165cmの一般的なアルペンスキー)

滑走面面積:1237.5×2=2475㎠ 面圧:29.1g/㎠

スノーボード(150cmの一般的なスノーボード)

滑走面面積:3750㎠ 面圧:19.2g/㎠

スキーボード(99.9cmの一般的なスキーボード)

滑走面面積:799.2×2=1598.4㎠ 面圧:45.0g/㎠


これらは非常に簡単に計算してはいますが、スキーに比べスキーボードの面圧は約1.5倍、スノーボードと比べると2.4倍も強いのがスキーボードです。

そして摩擦は押し付ける力(=面圧)に比例するため、スキーボードは元々摩擦が生じやすい板というのが数字で分かります。

実際は板のしなりや硬さ、様々な要因があるのでこの通りではありませんが、「スキーボードはスキーなどよりも1.5倍以上の面圧と摩擦がある」という点のみざっくり理解して頂くと理解しやすくなると思います。

雪と滑走面との摩擦はごく小さいものですが、わずかでも摩擦があれば熱が発生し、滑走面はごくわずかずつ削られます。アイスバーンの多いゲレンデや人工雪のゲレンデででは雪の結晶が硬く尖った粒子になっていたりするために摩擦だけでなく滑走面がやすりのように削られます。スキーボードはこういう状況でも1.5倍以上影響を受けやすい…と捉えてもらっても良いかもしれません。

ここで話題がちょっと逸れますが、皆さんはベースバーン(滑走面焼け)についてはどのように理解していますか?

ベースバーンはよく「板が焼けた!」などと言われます。滑った後滑走面が白く変色しているアレです。

kimg0857この写真を見ると、ところどころ白く変色しているのが分かると思います。これがいわゆる「焼けた!」ということですが、実際はベースバーンとは別に滑走面がごく薄く削られて毛羽立つ「毛羽立ち」というのもあります。

ベースバーンは摩擦による熱などで滑走面の素材が変質し、傷んでしまっている状態です。毛羽立ちはその前段階の状態、摩擦で細かくやすられてザラザラになっている状態です。

毛羽立ってしまうとゲレンデでは余計に摩擦がひどくなって滑りはどんどん劣化します。このままの状態で使い続けると毛羽立ちが摩擦だけでなくゲレンデのごみや汚れ、油などを掻き込んでしまい、ますます滑りは悪くなります。ワックスも浸透しにくくなるので保護性も失われますし、あまり良い状態ではありません。

pic_1202これが末期的に酷くなると…右写真のような状態にまでなります。こうなるともはやゲレンデを上に向かって上ることすらできます。

こうなると専門のチューンを頼んで板を直さない限り、元の滑走性は得られません。

 

なんでこうなる・・・それはスキーボードが面圧が高いからです。普通のスキーよりも摩擦が大きいスキーボードはそのまま使い続けると単純にスキーなどよりも1.5倍以上早く劣化が進みます。スキーボーダーなら多くの人が苦手とする春雪のスキーでは、ゲレンデの汚れもあってスキーボードでは引っかかるような滑りで四苦八苦した方も多いと思います。

これを解決するには摩擦を低減して毛羽立ちを抑えること。なのですが、普通のスキーやスノーボードのセオリー通りにワックスを使ってもスキーボードの場合「足りない」んです。


一般のワックスはスキーなどで快適に滑れるように作られています。なのでワックスにもいろいろあって硬さなど選べるのですが、その通りに使ってもスキーボードでは思ったような効果を得られないことがよくあります。これはひとえに面圧が高くて摩擦が大きいからです。

これを軽減するには硬いワックスを使うのが最も効果的です。硬いワックスは滑走面の保護性を向上させるだけでなく、毛羽立ちも抑えてくれます。硬いワックスとはマイナス10度くらいでの使用を勧められる低温度用のワックスです。低温度では先に書いている通り氷自体の攻撃性が強くなり、長い板であっても強い摩擦を受けて滑走面が劣化します。なのでこの温度帯のワックスは保護性を重視して作られています。

スキーボードではむしろこの温度帯のワックスを優先的に使うべきなのです。すると滑走面が劣化しにくくなり、高い滑走性を保ちやすくなります。さらにベースバーンの軽減にもつながるので、結果的に板は長持ちします。

私個人の見解では、スキーボードではメーカー推奨の一段階硬いものを選ぶと効果があると見ています。なおGR板ではプレチューン時点で非常に硬いワックスを施工し、最低限滑走面の劣化が起こらないように工夫しています。(※ただし数回の使用でワックスが落ちるので、定期的にワックスを入れなければ劣化します)

もし最初からワックスが入っていないと・・・スキーボードはあっという間に劣化して「かんじき」のようになってしまうでしょう。


こういった事柄に対して素材で軽減することもできます。高級な板などに使用されるシンタードベースと呼ばれる硬い滑走面は元々摩擦抵抗が小さいので、一般のものよりも劣化しにくくなっています。しかしシンタードを採用するスキーボードはあまりなく、あっても非常に高価な板です。(※シンタードベース自体が高いため)

むしろ低価格を要求されるスキーボードでは、ワックスすら入りにくいPEベースと呼ばれる廉価な滑走面が採用されることも少なくありません。この滑走面は柔らかく傷つきやすいため、ワックスを入れていてもすぐに毛羽立ち、ベースバーンが起こってしまいます。

GRでは価格と性能を鑑みてその中間に位置するエクストリューデッドベースを採用しています。特にGRのものはワックスが入りやすく、メンテがしやすいものを選んでいます。


と、滑走面の素材は仕方ないところもありますが、ワックスは誰でも容易に選べますし対策ができます。そしてそのコツとして、GRでは「硬いワックスを選んで使用する」ことをおすすめします。もし経験が少なく、オールラウンドワックスやスプレーワックスに頼っている場合でも、定期的に板をクリーニングして最低限ごみや汚れが付着したままにしないだけでも、驚くほど滑走性は持たせることが出来ます。

※ちなみに板のクリーニング方法については動画で解説しています。

この「クリーニング」と「硬いワックスを使う」事が、スキーボードならではのワックスのコツだと思います。できるだけ摩擦を低減させるようなワクシングこそが、スキーボードで気持ちよく滑るためのコツとも言えるでしょう。これが一般のワックス理論では足りないスキーボードならではの部分なのです。

しかし、問題もあります。硬いワックスは施工がしにくく、高い温度でアイロンを使うためにアイロンの熱によって滑走面を痛めてしまうことがあるという事です。硬いワックスはその多くがアイロン設定温度が140度以上です。慣れないユーザーが扱うにはちょっと怖い温度です。

こればかりは慣れとコツをつかんでいただく他ないのですが、もし経験を積むのであればベース作りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?ベース作りとは、シーズン前に数回から数十回いろいろなワックスを入れて滑走面に十分なワックスを浸透させておくチューンナップです。

一般的なベース作りの方法は

1 板をクリーニングする(初回のみ)

2 高温度用ワックス(0度以上に対応するワックス)を入れる⇒浸透させる⇒剥がす

3 中温度用ワックス(-2~-8度くらいに対応するワックス)を入れる⇒浸透させる⇒剥がす

4 低温度用ワックス(-10度以下に対応するワックス)を入れる⇒浸透させる⇒剥がす

5 2~4の工程を1~3回以上繰り返す。

このようになります。シーズン前の暇な時にでもワックスを入れて剥がす、というのを繰り返すだけなので夏くらいから作業を始めるとシーズンにはとても良い滑走面が仕上がります。

ポイントとしては「ベース用ワックス」を使うこと(※フッ素などの添加剤が入っているものはNGです)、同じメーカーのワックスを使うこと、浸透には一日程度放置して剥がすこと。くらいで、さほど難しい事はありません。それに加えてアイロンにも慣れますし、徐々に温度が上がっていくので作業の程度がつかみやすいと思います。

ワックスは滑走面の上で溶けただけで滑走面に浸透します。アイロンペーパーを使い、滑走面の上でワックスを溶かすだけ、と思ってささっと使うと失敗を防げます。慣れないうちはちょっと多めに使うのもコツです、もったいない気もしますが、板を焼くよりはずっとましです。滑走面の上で多少解けない感じがあっても慣れるまではそれでOK、ワックスは思ったよりもあっさり浸透するものです。

ワックスを剥がすのも大変ですがシーズン前なら時間を気にせずじっくりできますし、そのうちやり方のコツも掴めます。(ワックスを剥がすコツはスクレーパーで剥がす際にしっかり剥がすことです)

ベースがしっかりできている板はそれだけで保護性が高く、焼けにくくなります。硬いワックスも入っていますから新たなスキーボードのワックスのセオリーにも合いますし、ベースがしっかりできている滑走面は追加のワックスもしっかり浸透しますし、いいことづくめです。

ワックスについては当サイト内でも何度か繰り返して解説を行っております。興味のある方はサイト内のタグから「ワックス」を選んでいただけると、過去の記事や動画を参照することが出来ます。


 

最後に、GRではそんなスキーボードに最適なワックスの取り扱いを今シーズンより始めます。レースシーンから生み出される性能はもちろん、保護性、作業性に優れた国産ワックスメーカーのワックスです!

ハヤシワックスについては ⇒ <こちら>(リンクは後日繋がります。しばらくお待ち下さい)


以上、ワックスと摩擦について解説してみました。ちょっと難しい話もありましたが、この情報が皆さんのスキボライフに少しでも良い情報となれば幸いです。