ワックスの種類について

前回 <こちら> にてスキーとワックスについて解説しました。(まだご覧になっていない方は一度ご覧ください)

非常にわかりにくい話ですが、今回はさらに踏み込んだ解説をしたいと思います。

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前回、スキーとワックスの関係を解説しましたが、その中で「ワックスには種類がある」と言いました。その種類について解説します。ワックスの種類

(上記 A-EはAが最も優れている、Eが最も効果が期待できない。 S-HはSが柔らかい Mがふつう Hが硬いの意です)

このように種類があります。(表は一般的なワックスの参考です)

これらを使い分けるのがワックスのむずかしさであり醍醐味ですが、まず基本としてこのような関係があります。使う基準として気温や雪温が示されていますが実は単純にそれらの温度帯に合わせるだけでなく、使うシチュエーションに合わせてワックスを選ばなければ、逆にワックスが滑走性を悪くすることもあります。

たとえば人工雪のスキー場。人工雪は天然に比べて結晶が硬く、板が傷つきやすい傾向にあります。ですのでベースとしては保護性の硬いワックスが入っていないと後で残念なことになります。また、黄砂の舞う春先はこの黄砂やゴミが摩擦となって滑走性の邪魔になるので、暖かい時期ではありますが低温用のワックスが必要になります。

しかし保護性ばかり見ていると滑走性が悪くなる事もあります。これは「硬いワックスが入っていると柔らかいワックスが入りにくい」と言う特徴にもよる事で、板の撥水性が損なわれて雪が少しでも解けると滑りにくくなる板になったりもします。

したがってベースの作り方にコツが生まれてきます。ベースワックスは一般的に柔らかいものから順に硬いワックスを入れます。こうして作ったベースは滑走性も持ちつつ保護性も持たせたオールラウンドな板に仕上がります。これが面倒な場合は「オールラウンド用」の幅広いシチュエーションで使えるベースワックスを使う方法もありますが、多くはやや保護性にかけるので個人的には硬いワックスと組み合わせると良いと考えています。

こうして作り上げた滑走面は十分に浸透した皮膜層ができており、高い滑走性を維持することが出来ます。が、この皮膜層は滑るほど失われるため、適時ベースワックスを塗って維持する必要もあります。これは一見面倒ですが、一度ベースを作ってしまえば作業自体は割と簡単になります。こうして十分浸透した皮膜層を作り、維持していくことを「滑走面を育てる」と表現したりします。

ここで注意なのですが、ワックスは「それそのものは滑らない」と言う事です。

DSC06479_R 余分なワックスを削り取る各種ブラシ

スキーで滑る際に必要なのは「ワックスが浸透した滑走面」であって、その上に残るワックスは余分なものです。ですので、ワックス作業では必ずワックスをはがし取る必要があります。

この作業を「ブラッシング」と言いますが、ブラッシングの意味はもう一つあり、ストラクチャーと呼ばれる滑走面の微細な排水の為の傷のワックスをはがし取る意味もあります。

ストラクチャーは滑走面をよく見るとわかりますが、非常に微細に細かく傷がついているのがわかると思います。この傷が非常に大切で、滑る上で邪魔な「水」を効果的に排水してくれます。水はまとわりつく性質があり、滑走性に悪影響を及ぼします(表面張力、ゲレンデにできた水たまりに入った事がある人はわかると思います)。それを軽減してくれる構造が「ストラクチャー」です。ストラクチャーを失った滑走面はいくら育ててもなかなか滑走性が上がりません。(濡れた机に下敷きを置き、しっかりと押さえつけてから横に滑らそうとしてもなかなか滑りません。同じ現象が雪の上でも起こります)

かといって過度にストラクチャーを付けてしまうとそれそのものが滑走性を悪くする場合もあります。ストラクチャーは難しいので細かい説明は省きますが、安易にストラクチャーはいじれるものではありません。

話はそれましたがワックスが塗られるとこのストラクチャーはもれなく埋まってしまいます。ですのでブラッシングによってストラクチャーの中のワックスもはがし取る事でより滑走性を高めます。ワックスは必要なのにワックス自体は必要ない、少し矛盾な感じもしますね。

ですが「ワックスが浸透している滑走面が滑る」と覚えれば、理解しやすくなると思います。

なお、滑走面のワックスをすべて剥がし取るのは非常に大変です。慣れないうちはこの作業でかなり苦労すると思います。


これまで「滑走面とベースワックス」について着目して解説してましたが、次に「滑走ワックス」についてです。

滑走ワックスは滑走性を高めることを主眼としており、ベースワックスとの一番大きな違いは添加剤が加えられている事です。この添加剤は多くは「フッ素」で、他にグラファイトと呼ばれる炭素化合物や、ガリウムなどもあります。これらの添加物は水弾きに作用したり、静電気に作用したりと様々です。

ですが一番の大きな目的は「水やゴミを滑走面に近づけない」事です。それによって安定した滑走性を発揮させるのが「滑走ワックス」です。

この滑走ワックスは基本的にベースワックスの上から使います。さらに滑走ワックスは滑るシチュエーションを良く検討した上で使うのが理想です。これは単純に滑走ワックスが高額であるのと、耐久性がベースワックスより劣るからです。しっかり状況にあった滑走ワックスを使わなければその効果は発揮されず、しかも一日滑れば滑走ワックスはだいたい剥がれ落ちてしまいます。

となると「浸透させればいいじゃない?」と考えますが、滑走ワックスに含まれる添加物はそのごく表面に効果を発揮します。浸透させてしまってもそれらの添加物は何も効果はありませんし、値段もかなり高い滑走ワックスなのでわざわざ頑張って浸透させるメリットはありません。

滑走ワックスイメージ 青が滑走面 黄色がワックス 黒点が添加物

図はイメージですが、このように捉えて頂ければ想像しやすいと思います。この表面に付着した添加物により、高い滑走性を発揮するのが滑走ワックスの役割です。特にフッ素は水に対して効果が高いので春雪などの水分が多い時期に用いると一日気持ちよく滑れる事でしょう。

滑走ワックスはこのような原理がありますが、実はレジャースキーであればそこまで必要なものでもありません。タイムを争う競技スキーでは避けて通れない部分ですが、タイムよりも快感を重視するスキーの場合、一日通して滑走性が保てるという事の方が重要です。

ですので敢えて滑走ワックスを使うよりも、ベースワックスをしっかり使って良いベースを作る事の方が重要です。コスト的にも滑走ワックスは高額なので、ベースワックスの扱いに慣れてから使い始める方が良いと思います。

私もたまに使いますが、毎回使う訳ではありません。あらかじめシチュエーション的に「必要だな」と思う時以外はあまり使いませんし、後述の液体ワックスなどを活用してピンポイントで滑走性を維持する方法でスキーを楽しんでいます。パウダーや雨のスキー、初めて訪れるスキー場など滑走ワックスがその効果を発揮するのは、そういった必要である状況が見えた時に使うようにしています。

この他に液体ワックスや、それを使いやすくしたスプレーワックスがありますが、原理的には滑走ワックスに近いものと捉えてしまって構いません。ですので一時的な滑走性は良いのですが、残念ながらその効果は一日、状況では半日も持たないものもあります。スプレーワックスを使う場合でも、最低限あらかじめベースワックスが浸透している滑走面を作っておいた方がより効果は長持ちします。

また、液体ワックスなどは一時的に浸透させるためにコルクなどでこすりあげる必要があります。これが実は結構大変な作業で、アイロンを使ったワックス作業が出来ればやりたくないと思うような作業です。ちなみにコルクでこすらずそのまま使った場合、最悪たった一本滑っただけでワックスが剥がれ落ちてしまう事もあります。

と、ここまではパラフィンが主成分となるワックスについて説明しました。しかし最近では「非ワックス系」というものも存在します。有名なのはザードスのノットワックスですね。

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このタイプは滑走面の表面にフッ素などの被膜を作り滑走性を保ちます。原理的にはテフロンコートのフライパンに近いです。ですので適切に使うと驚くべき効果を発揮し、しかも効果も滑走ワックスなどよりも長く体感できます。特に春雪には非常に効果が高く、扱いも手軽です。

ですが、根本的に「保護性」を無視しているのでこれもできれば保護性の高い硬いベースワックスで滑走面を作った後に使った方が良いです。実際にワックスに添加された状態のものもありますし、ワックスとの併用も推奨されています。

正直なところ、本当に効果が高いのでワックスに不慣れな方にはおすすめできるものでもあります。私も緊急用にいつも携帯しています。

最後にクリーニングワックスですが、クリーニングワックスは極力添加物や不純物のない、扱いやすいパラフィンでできています。よってその保護性や滑走性はあまり期待できませんが、滑走面をきれいにするためには非常に有用です。

これは、クリーニングワックスを滑走面に溶かし込むと滑走面の奥からゴミやほこり、油などを浮かし出してくれるからです。ですからクリーニングワックスは浸透させる目的もないので使う場合は滑走面に溶かしたら軽く固まるのを待ち、すぐに剥がし取ってしまいます。手間はかかりますがかなり滑走面をきれいにすることが出来ます。

 

このようにワックスの種類について説明させて頂きました。私の主観によるものもありますが、概ね把握して頂ければこれからのメンテナンスに生かせる情報にはなると思います。

ワックスは始めるのが少し大変ですが、出来るようになるとゲレンデで一日気持ちよく滑れるようにもなります。実際の施工方法はまた別の機会に説明させて頂きますが、この機会に始めてみてはいかがでしょうか?

スキーとワックスの関係について

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(注)非常に長く理解しにくいかもしれません。あしからず。

スキーボードもスキーもスノボも、その板は雪の上で滑ります。なので、ほとんどの板は雪に対して滑りやすい素材を滑走面に採用しています。

この素材は簡単に言えば「ポリエチレン」でできています。数ある素材の中でポリエチレンが採用されたのはマイナス以下の温度に対して変質が少ないのと加工が容易なこと、そしてワックスとの相性が良いことが大きく採用されている理由です。そのポリエチレンの種類として専門用語的に「エクストリューテッドベース」「シンタードベース」などがあります。

このポリエチレンはワックスと共に使うと非常に強力に滑走性を高めることが出来ます。この原理は様々あるのですが大まかに

・水が張り付く事で損なわれる滑走性を軽減できる(表面張力による滑走性の低減)

・氷が傷つける事で損なわれる滑走性を軽減できる(摩擦力による滑走性の低減)

と、似て非なる二つの要因に対して有効なのがこの組み合わせなのです。


水は0℃で凍ります。凍った水の結晶が積もった状態が雪なのですが、この上を滑るからこそ難しい問題があります。それは雪がさまざまな状況で多様にその状況を変化させてしまう事。なので、滑走面として適切なのは一つのシチュエーションで優れた効果を持つものよりも、多様なシチュエーションに合わせて柔軟に対応できる素材である。という事です。

気温が0℃程度の時の雪はすぐに解けます。滑ると雪と滑走面の間に水がまとわりつき、滑りが悪くなります。そこで滑走面に撥水性を持たせれば水をはじき、滑走性を維持できます。

気温が非常に寒いマイナス10度の時は雪は硬く凍ります。その硬い結晶はやすりのように滑走面を削り、滑走性が悪くなります。そこで滑走面に削れにくい能力を持たせれば、滑走性を維持できます。

この二つの仕組みを滑走面に与えられるのが「ワックス」なのです。ワックスのその成分は「パラフィン」で、簡単に言うとロウソクのロウと同じ成分です。このパラフィンに様々な添加物を与えたり、そのものに工夫をすることで大変多くの種類のワックスが生み出されています。

DSC06473_R 例 写真はSWIX社などのもの。ワックスとその種類

簡単には、ワックスは気温によってその種類が分けられています。

・溶けやすい雪に対して撥水性を重視したもの(高温度用、写真では黄色のワックス)

・硬く傷つける雪に対して保護性を重視したもの(低温度用、写真では青いワックス)

・その中間となる1~3種類のもの(中温度用、写真では赤いワックス)

が多くのワックスメーカーで用意されています。さらに幅広いシチュエーションに対応できる「オールラウンド用」と、滑走面のクリーニング目的で使う「クリーニング用」があります。さらにその用途で「ベース用」「滑走用」などがありますが、今回はその説明は割愛します。

雪の状況に合わせて滑走面にワックスを塗る事で多様なシチュエーションに合わせて滑走性を維持できるのが、このポチエチレン+ワックスの最大の強みです。だからこそ一般のユーザーにはわかりにくい悩みが同時に存在しています。

それは「どのワックスをどのように使うか」

という事です。


ワックスの塗られていないポリエチレンのみの滑走面は、初期的には滑りますがどんどんその滑りは劣化していきます。ポリエチレンは低温や高温に強い反面、劣化しやすい性質があるからです。スキーではこれを「滑走面が酸化する」「滑走面が焼ける」と表現していて、横文字だと「ベースバーン」と言います。

この劣化は止める手段がなく、たとえどのような滑走面でも時間が経てば劣化します。さらに対候性に弱い性質を持つために、屋外で使うスキーは何もしなければどんどん劣化します。劣化してしまった滑走面はそのままではワックスを浸透させることが出来なくなっており、上記の滑走性の維持や保護性の向上が出来なくなるばかりか、より滑走面が劣化していきます。

この劣化を食い止めるのが、またワックスの役割です。劣化の大きな原因は水と空気と紫外線ですが、そのうち水と空気に関してワックスが塗られていれば、その劣化を大きく食い止めることが出来ます。ワックスによるごく薄い皮膜のような層によって無用な水や空気が滑走面に触れなくなり、滑走面はより長くその性能を維持することが出来ます。

ですが、このワックスが浸透して出来た層は0.2ミクロンとも言われる非常に薄い層で、これは滑走によって徐々に失われていきます。よって、ワックスは適時塗り足して浸透させなければなりません。

では、削れにくくする「保護性」重視のワックスを使えばワックスははがれにくくなるでしょうか?答えはその通りですが、しかしデメリットがあります。保護性重視のワックスが浸透している滑走面は滑走性を重視する柔らかいワックスが入りにくくなります。したがってワックスをバランスよく浸透させることが一番大事になります。逆に滑走性のワックスだけが浸透している滑走面は低温時に滑走面が保護しきれずやすられて削られ、せっかくの浸透層がなくなって無防備な滑走面を晒して劣化させてしまいます。(良くスキーの板が滑走後に白く変色しているのはこれが理由です。なので圧が最もかかる足元のエッジ付近が良く白く変色して劣化します)

このバランスを簡単にしたものが「オールラウンド用」と呼ばれるワックスです。オールラウンド用ワックスは適度に滑走性と保護性を持っているので扱いは楽です。しかしシーズン通した幅広いシチュエーションすべてに対応できるほどの柔軟さは持っていませんし、多くのオールラウンド用は滑走性を重視して配合されています。より適した滑走面を求めるならば、数種のワックスを使い分ける方がより良い滑走面になります。

この場合、浸透させる順序があります。基本は高温度用の柔らかいワックスから低温度用の硬いワックスの順番に使います。さらに滑走面は1度や2度の作業ではワックスがしみこみきりません。何度も浸透させることで一様に均一な、様々なシチュエーションに対応できる滑走面が出来上がります。これを「滑走面を育てる」とも言います。

このようにして作った滑走面は滑走性を維持しつつもしっかりとした保護性を発揮し、多少のシチュエーションの変化でも諸ともしない良い滑走面になります。またしっかりワックスが浸透している事で劣化に対しても効果を発揮し、その寿命は格段に長くなります。あとはその都度時期や雪に合わせたワックスを塗り足していくことでシーズン通して快適なスキーを楽しむことが出来ます。


 

このようにスキーとワックスは切っても切れない関係にありながら、その原理的には非常に理解するのに難しい問題があります。しかしこれらの原理的な部分を理解しておくと、自分でチューンナップを行う際にワックスの選択などで判断しやすくなります。

次回はそんなワックスの具体的な種類と使い分けについて説明したいと思います。

 

GR板のプレチューンナップ作業の紹介

GR板のプレチューン紹介動画です。GR板は全てこのような作業の後に出荷されております。

(注)

これらの作業は滑走性などを向上させる目的で行われておりますが、すべてのユーザーに対してその効果を保障するものではありません

また、その効果は一時的なものであり恒久的に維持されるものではありません、これらの点をご了承ください。